商品を販売しない、フェアトレード

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糸澤文香さん
筑波大学理工学群社会工学類3年
イギリス・2013年8月参加


「最初のフェアトレードタウンはイギリスで生まれたんだよ。」大学でフェアトレードサークルに所属している私は、ある日メンバーにそう教えられた。それから「イギリス=フェアトレード先進国」というイメージが自然と出来上がっていた。イギリスに行ってフェアトレードの最先端を見てみたい、フェアトレード先進国の実情を見てみたい、それが私が今回コミュニティインターンに参加したきっかけの1つだった。イギリスで、最初に出会ったフェアトレード製品はコーヒーシュガーだった。これはイギリスへ向かう機内で出てきたものだったので、正確にイギリスで出会ったというわけではないが。日本を出発して数時間でフェアトレードが見つかったことで、私の期待はますます大きくなっていった。イギリスに降り立ってすぐにサネットへと移動し、2週間お世話になるホストファミリーの家へと向かった。サネットはロンドンの南東に位置する海沿いの街で、減少する観光客数に歯止めをかけようと、ターナー美術館をはじめとする様々な街おこしに取り組んでいる。その一つがフェアトレードタウンである。

イギリスにはフェアトレードタウンが数多く存在するが、サネットもその1つである。フェアトレードタウンと聞いて、私は町中のいたるところにフェアトレードショップが点在し、住民はフェアトレードに関心を持ち、またそのことに対して誇りを持っているものだと勝手に解釈していた。インターンプログラム初日、2日目にかけてサネット地域、特にRamgsgateの街歩きをしたが、思っているよりもフェアトレード専門店は見当たらなかった。Waitroseというスーパーマーケットには砂糖やコーヒーはもちろん、コーラやはちみつ、ワインに至るまでフェアトレード商品が数多く陳列されていた。商品の中にはwaitrose独自のものも多く、特に紅茶はティーバッグからルーズリーフティー(茶葉)まで、様々な種類が取りそろえられていた。日本では、最近イオンなどの大手スーパーの自社ブランドでも、チョコレートなどでフェアトレード商品を扱い始めてきたが、その種類はまだまだ少なく、しかもフェアトレードによほど興味がある人でないとその事実についても知らない場合が多い。ここでも日本とイギリスのフェアトレードに対する差を感じた。

プログラム後半では、Broadstairsという街をフェアトレード商品を扱う店舗を訪れ、実際にフェアトレード商品を扱っているか、売れ行きはどうかなど、直接従業員の方たちに尋ねるという機会を得た。私達のチームは美容室を2件訪問し、どのようなフェアトレード商品を扱っているかを調査した。最初に調査先を告げられた時、美容室とフェアトレードに一体何の関係があるのか、イギリスではヘアケア用品もフェアトレードなのか、と様々な想像をしていた。しかし実際に店舗に伺ってみると、ヘア用品がフェアトレードなのではなく、美容室で客に出すコーヒーや紅茶がフェアトレードであることが分かった。フェアトレードといえば、フェアトレード商品を消費者に向けて販売することだけ、といった凝り固まった考えをしていたことに気づかされ、これは素晴らしい取り組みであると思った。一見すると、全く関係のない分野でも何らかの形でフェアトレードにかかわっていけるということを教わった。商品を販売しない、という新しいフェアトレードのシステムは、フェアトレードショップよりもより低いリスクでフェアトレードを導入することができる。フェアトレードに関心を持っている人は少なくないが、フェアトレード商品を導入した際の収益の減+少や顧客からの反応など様々な障壁が考えられる。この方法なら、収益をあまり気にかけることなくフェアトレード商品(主にコーヒーや紅茶、チョコレートなどのオーソドックスな商品に限られるとは思うが)を導入できるというメリットがある。そのため、先述のヘアサロンはもちろん、大学や企業など様々な場所、場面でフェアトレード商品を導入できる。こう見ると、イギリスのフェアトレードタウンでは、フェアトレードを足がかりとした街おこしが成功しているように見える。

しかし、私達はサネットを街歩きした際に違った一面を見ることができた。あるグループがインタビューした、フェアトレード商品を取り扱っていたというカフェのオーナーによれば、フェアトレード商品は質が悪く、客からの反応も良くないということで、フェアトレード商品の取り扱いをやめてしまったのだという。フェアトレードタウンでフェアトレード商品を扱う店として、サネットのフェアトレード広報誌の中で、fairtrade directory に名前が掲載されているにも関わらず、先述の店のように取り扱いをやめてしまった店や既になくなってしまった店もあった。このように、フェアトレード商品を扱う供給側としても問題点も発見することができた。

一方、フェアトレードタウンの消費者は、フェアトレードについてどう考え、感じているのだろうか。今回は2週間にわたりRamsgateでホームステイをしたので、実際に現地の人と会話する機会が多々あり、実情を知るには最高の機会だったと思う。私がホストマザーにフェアトレードについてどう思うか尋ねたところ、何というか、イギリス人らしいユーモアと皮肉を交えてフェアトレードについての意見を語ってくれた。彼女自身はフェアトレードというアイディアそれ自体には賛成だという。まず驚いたことは、日本でもフェアトレードが浸透しつつあるとはいえ、その中心は若い世代であり、年配の方になるとその言葉自体知らない人も多いが、彼女はフェアトレードについて正確に理解していた。イギリスがいち早くフェアトレードに取り組んだことに加え、彼女は毎日新聞を読み、教養も深かったからかもしれない。彼女の話に戻ると、フェアトレードのアイディアには賛成だが、実際の活動になると話は別で、あまり好きではないという。なぜならば、少し前にイギリス国内でNPOが慈善事業を理由に市民から寄付を集めていたが、結局それは横領され、詐欺であったというニュースがあったらしく、イギリス国内で非営利団体や慈善事業に関する目が厳しくなっているのだという。また、イギリスではフェアトレードと言えば教会が主導していることが多く、日本のように企業が先行しているというイメージがあまりないので、余計にフェアトレードと慈善事業の結びつきが強い印象が残ってしまっているのではないかと思った。一口にフェアトレードタウンとは言っても、フェアトレードに賛成する市民ばかりではないということを痛感した。今回はホストマザーにしか話を聞くことはできなかったが、ぜひあらゆる年代にフェアトレードについての意見を聞いてみたいと思った。

今回イギリスの2週間にわたる滞在で、フェアトレードという言葉の認知度が日本に比べて高いことや、物を売るという形以外のフェアトレードの新しい形を知ることができたこと、またフェアトレードタウンを通したまちづくりの成功事例やその難しさを知ることができた。これは、フェアトレードに関心を持ち始めてまだ間もない私にとっては強い刺激ではあったが、それによってもっと勉強したいと考えるようになったことに加え、同じようにフェアトレードに関心がある仲間と出会えたことは大きな財産になった。また、これまでフェアトレードにあまり関心がなかった参加者もこのインターンシップを通してフェアトレードに関心を持てた、と言っていたので、それを聞いてやはり今回のプログラムは意義のあるものであったと感じることができた。